このページでは大阪精神科診療所協会理事でさまざまな睡眠時の障害を専門としている吉田院長が皆様のいろいろなお悩みにお答えします。
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テーマ 「睡眠薬を開始する前にできる不眠症状への対処法」
今回のテーマですが、不眠症状といえば、睡眠薬を飲んで治療するのかなと思いますが、
そうではないということでしょうか。
はい。夜に眠れないのは大変つらいものです。睡眠薬は不眠症状の治療をするうえで非常に重要な道具であり、それなしで治療を組み立てていくことは難しい場合もあります。ただその一方で、「睡眠薬を飲むしか方法はないのか」、というと、そんなことはありません。実は、睡眠薬を服用する前にできること、すべきことがたくさんあって、そういう対処法でうまくいけば、そもそも睡眠薬をのむ必要はないこともあります。またそういう対処法を身に着けることで、睡眠薬を減らしたりやめていくことに役立つ場合もあります。
それでは、不眠症状でお悩みの方に対して、睡眠薬を飲む前にどのような対処法があるのかを教えてください。
はい。まず、なぜ不眠症状が生じているか、その原因が何であるかを考えることがとても大切です。「不眠症状」は、「不眠症」以外のさまざまな原因でも起こるということです。
具体的にはどういうことでしょうか。
例えば、夜寝ようと思って横になると、足が熱くなったりむずむずしてじっとしていられない。その結果眠ることができず、強い不眠症状をきたす病気があります。これは「むずむず脚症候群」や「レストレスレッグス症候群」といわれる病気で、NHKでもさまざまな番組で何度も取り上げられている病気です。
むずむず脚症候群の患者様が不眠症状を訴えて受診したとき、患者様が眠れないことだけを訴えたり、診察した医師がこの病気を把握していないと、睡眠薬が処方される場合があります。しかし、むずむず脚症候群には通常の睡眠薬は無効の場合が多く、それどころかむしろ病状を悪化させてしまうこともあります。
なるほど。何か病気があって、その病気のせいで二次的に不眠症状が起こる場合があるのですね。そしてその場合の不眠症状には睡眠薬が効かないものもあると。
では他にもありますか?
そうですね、慢性化した不眠症状の原因は、例えば、うつ病やアルコール依存症をはじめとした精神科の病気であったり、痛みやかゆみ、咳などの身体の症状や身体の病気など、さまざまなことが考えられます。ですから「睡眠薬を飲めばそれで解決」、というわけにはいきません。
不眠症状の治療の基本は、まず不眠症状を引き起こしている原因を突き止めて、その原因にきっちり対処していくことです。
かゆみや痛みといった身体の症状も不眠の原因になるということですね。
そうですね。身体に出ている症状が原因で慢性の不眠症状に悩まされている方は少なくありません。その場合はやはりその症状の治療が優先されます。また、高齢の方では、さまざまな身体病気のために何種類もの薬を服用されていることがあります。そのような薬が不眠症状の原因となることもあります。
治療のために飲んでいる薬が不眠を起こすことがあるのですか?!
例えばどのような薬がありますか。
血圧を下げる薬、ステロイド剤、パーキンソン病の薬や、痛み止めなど、非常に多くの薬で不眠症状が起こる可能性があります。この場合、薬を変更したり量を減らすなどの対応が必要となります。
ほかにも気を付けなければならないことはありますか?
不眠症状が慢性化すると、少しでも長く寝たいと考えて、夕方6時7時といった早い時間から床に入る方がよくおられます。しかし睡眠のリズムを前にずらして早くから眠るのはとても難しく、早い時間から横になっていても結局寝付けません。寝付けないので布団の中でいらいらしたり、テレビをみたり読書したりスマホをいじる。そういった行動が余計に不眠を悪化させる場合が少なくありません。本来「布団」イコール「寝る場所」なのですが、眠れなくて布団の中でいろいろやりだすと、次第にそれが習慣になって、「布団に入る」と「余計に目がさえる」、ということが起こります。
ですので、少なくとも21時、22時くらいまでは横にならずに身体を起こしておいて、「早すぎる時間帯に布団に入らない」「眠くないのに布団に入らない」、「眠くなってから布団に入る」などをこころがけ、「布団の中では寝ること以外はしない」という習慣を取り戻すことが大切です。
眠れないときに「お酒を飲んで寝る」という人もいるようです。いわゆる寝酒というものですね。これについてはどう考えればよいでしょうか。
国際的に見て、日本人は不眠の時に寝酒をする率が高い国民であることがわかっています。確かに適度のアルコールは寝つきを早める作用があるでしょう。一方で、アルコールは身体の中での分解(代謝)が早いので、寝入ってから数時間で作用が切れてきて、そのタイミングで目が覚めやすくなります。そして、いったん夜中に目が覚めてしまうと、その時にはすでにアルコールの作用は薄れているので、再び寝付くことが非常に困難になります。そのために、また夜中にアルコールを飲むことを繰り返していると、どんどん飲酒量が増えていきます。寝酒では、通常に飲酒するよりも飲酒量が急激に増える傾向があり、その結果、精神面、身体面にさまざまな悪影響を及ぼす場合があります。
なるほど。寝酒はマイナスの影響が大きいということですね。
まだほかにもあります。お酒を飲んだ夜は、鼻づまりやいびきがひどくなるとか、トイレに行きたくなる、といったことが起こり、睡眠の妨げになります。このように、アルコールは睡眠にとって百害あって一利なしですので、不眠症状でお困りの方は、飲酒習慣を見直す必要があるでしょう。少なくとも寝酒の習慣はやめないといけません。
では、今日の「睡眠薬を飲む前にできる不眠症状への対応」というお話について、少しまとめていただけますでしょうか。
はい。その日の昼間にどのような行動をしていたかによって、夜に眠れるかどうかだいたい決まってしまいます。例えば、昼間に横になってうとうとばかりしていれば、夜に寝付けないのは当たり前なのです。寝るのは夜ですが、夜にうまく寝るためには24時間の生活を見直していかなければいけないということです。昼間のご自身の行動を意識することで、例えば、今日は少し長めの昼寝をしたから寝付きにくいだろうな、と予想できれば、布団に入る時間をいつもより少し遅くするのもよいし、今夜眠れないことは諦めて、「明日は眠れるだろう」と切り替えることも重要です。
不眠症状への対応としては、お話ししてきたような昼間の行動や睡眠のパターン、アルコールやたばこ、カフェインなどのし好品の影響、身体の病気や心の病気とその治療薬の関与などを、総合的に判断していかねばなりません。ただ単に「睡眠薬を服用すればよい」というものではありません。不眠症状が2,3週間以上続くようなら、早めに睡眠医療の専門医がいる医療機関を受診することをお勧めいたします。
なお日本睡眠学会認定睡眠専門医は、日本睡眠学会のホームページから調べることができます。